売上が上がれば今の不安は解消されるのか?
仕事柄、これから事務所を大きくしたいとお考え中の先生にお目にかかりますとよく尋ねられるのが「売上が伸びて1億円とか2億円とかになったら、きっと今抱いている悩みは不安は解消させるのでしょうね?」というものです。
読者の皆様はどのようにお考えでしょうか?
そこで今日はこの質問についてお答えしたいと思います。
売上3,000万円~6,000万円前後の先生の悩み
そこでまず、売上3,000万円~6,000万円前後の先生がどのような悩みを抱いていて、規模が大きくなったらどうなると感じていらっしゃるのか?順番に解説して参りましょう。

まず最初は人の問題で、人が採れない・採ってもすぐ辞めてしまうという問題です。これに関してはどちらの事務所でもまさに悩まれていらっしゃることでしょう。だからこそ、多くの先生方は「もっと事務所が大きくなれば、求人を掛ければそこそこ応募があって、比較的良い人も来るのではないか」と考えれていらっしゃるようです。
次は人が辞めてしまった場合の問題です。規模の小さな事務所の場合、新たな人が採れない限り、当面は先生がリカバリーをしなければなりませんので、「事務所が大きくなれば、仮に人が辞めてしまっても今のようなドタバタした状態にはならないのではないか?」と思われるのも無理はないですね。
三番目は「自分一人が走り廻っていて、このまま売上が増えても今の状態がずっと続くのはちょっと辛いな」ということですよね。だからこそ、「早く事務所を大きくして、ある程度安定的に紹介案件が流れて来たり、みんなで売上を上げるために考えたりできるような事務所になりたい」とお考えになっているのでしょう。
四番目は三番目とも関係しますが「今は自分は担当も持ちながら申告書のチェックもやって、更に営業活動までやって身が持たない」、きっと「事務所が大きくなれば、決算書のチェックなども自分以外の誰かがやってくれて、少なくともファーストチェックは誰かがやってくれるようになるのではないか?そして空いた時間で経営上必要なことに時間を使えるようになるのではないか?」とお感じになっているというものです。
自分が忙しいのは仕方ないとしても「自分以外の人でもできるのであれば任せたい」ということですよね。
最後は精神的には最も影響の大きい「事務所が大きくなれば、売上やお金の心配をしなくてよくなる日が来るのではないか?」というものです。売上が上がれば資金的にも余裕ができるでしょうから、そう思われるのも無理はないですね。
では、実際に事務所の規模が大きくなったらどうなのか?を確認して参りましょう。
規模が大きくなった事務所の所長の悩み

上記は売上が2億円・3億円、またはそれ以上の規模の先生が感じているお悩みを列挙したものです。ご覧いただいておわかりの通り、結論から申し上げますと「事務所が大きくなっても悩みはなくならない」と言うのが実際にところです。
そこで簡単に解説をいたします。
1.人が採れない・採っても辞める
こちらについては、正直小さな事務所とそんなに大きく状況は変わりません。ただ、「いくらか応募は来やすい」という面はあるかも知れません。ただ「こちらが欲しい人材がドンドン来るか?」というとそんなことは決してありません。
次に「採っても辞める」という問題ですが、これは昨今の若者の傾向ですので、恐らく事務所が大きくても小さくてもあまり変わらないでしょう。むしろ、「今の事務所できちんと将来が見えるかどうか?描けるかどうか?」の方が若者の定着には大切であると思います。詳しくは「人事制度」のページをご覧ください。
2.固定費がかさんで意外と儲からない
この問題に関しては、働いている職員が40代・50代中心か?若手中心かで状況は異なります。
働いている職員が40代・50代の場合、平均賃金が高く固定費が掛かる割には生産性が低いため、あまり利益は出ていないようです。勿論先生も利益を確保するために業務効率化を進めておりますが、職員の方々の意識変革が進まないため、苦戦中という感じです。
次に若手中心の事務所の場合です。こちらは「40代・50代中心」の事務所よりは人件費は少ないですが、単価の低い仕事を中心に受注していますので、きちんと効率化できないと、言うほど利益は出ていません。
人件費は確かに抑えめではありますが、事務所の賃料や福利厚生など全体的な固定費はかかっていますので、この規模の先生方は異口同音に「売上が4,000万~7,000万円くらいが一番儲かっていた」とおっしゃっています。
ですから、そのように認識された方がよろしいかと思います。
3.頼れる幹部が育たない・幹部が辞めてしまう
規模の小さな事務所の皆様は「幹部にいろいろ任せることで自分が楽になるのではないのか?」と思われると思うのですが、残念ながら、多くの事務所はそうなっていません。
- 月次担当者はいるものの、幹部にふさわしい人物がいないこと
- 幹部に登用しても所長の期待に応える働きをしてくれない
ことがその理由です。
更に言えば、部下の面倒を見てくれたとしても「きちんと管理できない」ため、お客様からのクレームやトラブルも多く、多くの所長先生が「自分の仕事は謝ること」と自虐的に答えることも多々あります。
4.仕組み化できないと管理が大変
前述の3ともそのままつながりますが、要するにきちんと管理の仕組みを構築して、誰がやっても抜けなく漏れなくチェック&運営できるようになれば所長の仕事は楽になりますが、それが出来ている事務所はまだほんの一部ですので、マネジメントと仕組みづくりで苦戦していらっしゃるのがこの規模の特徴です。
ですから、規模の小さい事務所の方々が思うような状態ではないと思われた方が良いでしょう。
5.急激な変化に対応できるかどうかが不安
急激な変化とは職員が3人同時に辞めたとか、年間顧問料100万円~300万円規模のお客様を一度に数件失ったとか、人件費負担が上がり過ぎて、今のままでは利益が出なくなったというような状態です。
上記は実際によくある話です。
規模の小さな事務所の場合、極端に言えばご自分の役員報酬を少し下げれば、人1人分くらい何とかなるかも知れませんが、この規模になりますと、新たな売上を確保しない限り、自分の役員報酬を多少下げたくらいではカバーできません。
また所長が頑張って動いたところで急に売上をカバーできるレベルではありませんので、むしろ金銭的な不安は大きいのではないかと思います。
以上ここまで「事務所の売上が大きくなれば今の悩みは解消されるのか」についてお伝えしてきましたが、もうおわかりの通り、規模が大きくなったからと言って悩みがなくなることはありませんし、むしろ規模に応じてその悩みも大きくなると思った方が良いでしょう。
決して大きくすることが良いというつもりはありませんので「大きくしても大変そうだからこのままでいいや」と思われる方はそれでよろしいと思いますが、「でも自分は大きくしたいんだ!」と思われる方は、上記に挙げた大変さも織り込み済みで事務所拡大を目指されたらよろしいかと思います。

是非、頑張って下さい。