売上7,000万円前後の所長の悩みとは?
改訂版「会計事務所売上1億円突破のロードマップ」の規模別一覧表にも記載しておりますが、令和3年度の「経済センサス調査」によれば、全国の開業会計事務所の中で、従業員数5名以下の事務所が全体の約60%超、従業員数9名以下の事務所が約85%超を占めています。
ですから、従業員数7~10名前後の事務所ともなれば、確実に「業界の上位20%」に入って来ることとなりますので、より規模の小さな事務所にすれば「〇〇先生の事務所はいいですね」と、羨望のまなざしで見られることも多いかもしれません。
しかしながら、この規模の事務所の先生方とお話をしますと、意外にも以下のようなお悩みを抱いていることがわかります。
売上7,000万円前後の所長が考えていること
- 事務所をこれ以上大きくすべきか否か?もうこのくらいで十分ではないか?
- 売上7,000万円まではがむしゃらに売上を伸ばして来たが、この先どうすれば良いかがわからない
- 1億円を超えて大きくなれば、新規獲得も人もお金ももっと楽になるのではないか?
- 自分だけ忙しく頑張るのは嫌だ。今はまだ良いがあと5年も10年もこの状態を続けたくない。
- 事務所内部のことを任せられるリーダー&管理職が欲しい。
いかがでしょうか?思い当たる項目もいくつかおありでしょうか?
そこで、上記に対する解説をさせていただきます。
事務所をこれ以上大きくすべきか否か?もうこのくらいで十分ではないか?
冒頭でも述べましたが、この規模になりますと、誰もが一度は「もうこのくらいで十分かな?」と思われるようです。実際、業界の上位20%以内には入って来る訳ですから、そのようにお感じなのは無理もありません。
さらに近年は「人の採用も難しい」ですし、「折角採っても半年~数年以内に辞める」ため、これ以上、人の問題で悩むなら、もうこのくらいで十分ではないか?と思う方が増えているような気がします。
実際、事務所を大きくするか否かは所長先生の自由ですし、大きくしたから幸せになれる訳ではありません。ですから、所長のお気持ちに従って選べば良いように思います。
ただ、折角ですので2つほどお伝えしたいことがあります。それは…
1.事務所を大きくする先生は「事務所を大きくすべきか否か?」とは言わない
私のお客様は売上4,000万円位から10億円規模の方までいらっしゃるので、弊社に相談にお見えになる先生とお話をするとわかるのですが、観も蓋もないようで申し訳ないのですが、事務所を大きくしたい方は相談にお見えになると「これから事務所を大きくしたいのですが、どうしたら良いですか?」とか、「売上3億円までは持って行きたいので手伝っていただけませんか?」とおっしゃいます。
残念ながら「これから事務所を大きくした方が良いかどうか、悩んでいるのです」とは言わないのです。
ですから、私の判断としては「これから事務所を大きくすべきか否か?」とおっしゃる時点で、あまり大きくされたいとは思っていらっしゃらないのだな、と判断をしています。
2.自分のためには頑張れないから「職員のため」をパワーに変える
しかしながら、そういう所長先生でも「やっぱり大きくしたい」と思うようになる時があります。それは大きくする動機を「自分のためから職員のため」に変えるということです。
前述の「大きくすべきか否かで悩んでいる所長先生」は少なくとも「自分の欲のためには頑張れない」ということだと思うのですが、この規模になりますとほぼ全ての事務所様が20代~30代前半の若手職員や、ここ1~2年で結婚された若手職員を雇用しているケースがほとんどです。
そのため、先生の中には「今の若手が結婚して子供を大学まで出せるようにはしてあげたい」と思う方もいらっしゃるようで、そのことに気付いた先生は「彼らのためにも頑張らないと」と思うようです。
ですから、自分のためには頑張れない方は「職員のために頑張る」をパワー変えることをお薦めします。
これまでがむしゃらに売上を伸ばして来たが、この先どうすれば良いかがわからない
これは「売上7,000万円の壁」を突破する上で大変重要な課題なのですが、一言で言えば「リソース(資源)が枯渇している」ことが原因です。
標題にも「ここまでがむしゃらに売上を伸ばして来たが」と書きましたが、正直、売上7,000万円まで伸ばして来られたのは所長のバイタリティ以外の何物でもありません。
実際、これまで
- 所長の知人・友人・親族といった個人的な人脈
- 地域の親しい士業仲間
- 付き合いのある金融機関や保険会社、不動産会社といった各種チャネル
- 自分が提供できる仕事(能力)
- 休む間もなく働いて来た「所長の時間」
と思うのですが、上記1~5をごらんいただければおわかりのように、全ては「所長のリソース(資源)」を使って事務所を大きくした訳で、言い方を変えれば「もうこれ以上使えるリソースがない」ということを意味します。そしてそれが「所長が限界」と感じる理由です。
ですから、ここから再成長を遂げるためには「新たなリソースを補充」しなくてはなりません。具体的には
- 売り物(商材・専門分野)を増やす
- 販路(各種チャネル・販売手法)を増やす
- 売上を創れる人材を採用する
です。
事務所を拡大する時に、多くの方が「今の売上が3,000万円だから、職員数を倍にして顧問先数を倍にすれば売上を倍の6,000万円にできる」と考えるようですが、所長の頑張りで伸ばせる7,000万円近辺まではその考えでも行けますが、7,000万円を超えるとその考えは途端に通用しなくなります。
勿論、中にはそこを軽々突破する方もいらっしゃいますが、そういう方は稀です。通常は上記の「1~3のリソース」を追加することで大きくしており、「同じことをただやって大きくしている方」はほぼいません。
ですから、7,000万円を超えて大きくするなら、「人数を増やす」という発想ではなく、「リソースを増やす」という発想に切り替える必要があります。
1億円を超えて大きくなれば、新規獲得も人もお金ももっと楽になるのではないか?
これは、厳密には「悩み」とは少し違いますが、この規模になると多くの方が「今は大変でも、1億円を超えて大きくなれば、新規獲得も人もお金ももっと楽になるのではないか?」と思われるようです。
実際のところどうなのか?と言いますと、「売上が1億円を超えたあたりから、お客様からの紹介が増えたり、問合せが増えたり、何となく、事務所を取り巻く環境が変わるので、顧客の獲得は少し楽になった」とおっしゃる先生は多いようです。
しかしながら、同時に
- 事務所の拡大に伴って、扱いにくい職員も増え、所長の言うことを聞く人ばかりでなくなる
- 人&仕事の管理に手が回らなくなるので「クレームや解約」が増え、ストレスが掛かる
- 売上の増加に伴って固定費も増えるので、担う責任と圧し掛かるプレッシャーは増える
- 人数の増加に伴って生産性は低下し、苦労するほどは儲からなくなる
- 幹部職員&職員の離職が続き、精神的にダメージを受ける
といったような現象に見舞われ、「売上が増えても全く楽にならず、むしろ苦労が増えた」という方は多いようです。
ですから、私は「事務所がもっと大きくなれば、人もお金ももっと楽になるのではないか?」という思いは幻想です、と言うようにしています。
自分だけ忙しく頑張るのは嫌だ。内部を任せられる管理職が欲しい
これも、この規模になると必ず聞かれるお悩みです。
恐らく、ここまで自分一人で頑張って(事務所を牽引)して来たのだから、そろそろ楽をしたい、ということなのでしょう。これは冒頭の「業界の上位20%程度にまで伸ばして来た」という達成感というか自負とも関係するかも知れません。それだけ「疲れる」ということなのでしょう。
ただ、私は自分のお客様には「内部を任せられる管理職を育成することは大切ですが、売上1億2,000万円までは所長が頑張るしかないと思って下さい」と言っています。
というのは、売上7,000万円という数字は、業界的にはそこそこうやっているレベルかも知れませんが、事務所の内部体制は
- 所長
- 担当者3~5名
- パート社員数名
という状態で、冷静に考えれば「所長以外に事務所を牽引するような人材がいない」というのが実情です。
ですから、気持ちとしては理解できるのですが、7,000万円ではまだ、「所長以外の誰かの頑張り」に期待できるレベルではないので、管理職育成や組織づくりには着手しつつ、1億2,000万円レベルに達するまでは、まだ所長が頑張るしかないと考えた方が良いようです。
以上、「売上7,000万円前後の所長の悩みとは?」というテーマで書きましたが、是非、この記事を参考に、ここまで頑張った手を緩めず、次のステージである「売上1億2,000万円」を目指していただきたいと思っております。